あいしてるのブログ

この物語はフィクションです

「リバース・エッジ」平坦な戦場できみは生きのびることができるか?

 

岡崎京子原作「リバース・エッジ」。二度と同じ季節を過ごしたくないあの頃のその瞬間にしか手にすることのできない感覚。自分の身体から少しずつ抜け出てしまった真っ黒な毒のこと。鋭利な刃のような攻撃性、何処にも行けない不安と何処かに行きたい焦燥。住み慣れている振り子のような感受性を私はこれからも失わずにいられるのだろうか。

 

これは閉塞という言葉の似合う平坦な戦場で生きていたあの頃の私たちの話だ。煙を空に吐き出しつづける夜の工場地帯、新しいゴミが浮かんでは淀んでいく川。意味のないセックスや惰性のような煙草の煙、一瞬だけ光る希望のようなライターの火。絶望のはけ口を探して彷徨うわたしたち、本当のことは何も言えない世界なんて全部嘘だけどそれがなければやりすごせない、一体何処からがフィクションなのかが分からない。リアルなのは目の前にある死体だけ、信じられるのはたったそれだけ。

 

女の子の話。便器横で過食する女の子。ヒニンしてもらえない女の子。彼氏の心に触れない女の子。他人の暗闇を受け入れるゴミ箱みたいな女の子。生きている、岡崎京子の女の子は生きている、体温のある存在をスクリーンの中に感じることのできる幸福。きみたちが狂っているんじゃない、世界の側が狂っているだけなんだよ。遠くを見つめる女の子、泣き叫ぶ女の子、自分の体を燃やす女の子。きみを思い通りにしようとする人間に唾を吐いて、生身の心と本当の言葉をわたしだけに見せてほしい。

 

誰かとつながりたくても誰ともつながることができないわたしたちのdisコミュニケーション。衝動的な暴力や吐き出す為のセックスやあなたに見せたいミートボールや相手を傷物にする言葉たち。ぼくのきたない生を肯定してよ、好きって言われたいから愛らしき言葉を伝えただけだよ、自分の気持ちなんて何処にもないんだ。一番欲しいものには手が届かなくて近しい人の心には触れることができない。誰ともたぶん本当にはつながることができないという虚無に胸がひびわれる。

 

踏み外したかもしれない吊り橋、超えてはならなかった境界線のこと。出口のない戦場で、わたしたちは生きるか死ぬか。同級生の死体の上に立って余生を生きてゆくということ。熱いものを熱いと感じ、冷たいものを冷たいと感じたいということ。リアルな喪失を忘れながら、呼吸をして、武器を持ち、立ち上がる。わたしたちを殺そうとするすべての抑圧と戦いつづけよう。鬱々とした季節はまだ終わらない、振り返ればいつもあの頃の死んだ目をした私がこっちを見つめているのだから。

 

 

えーでぃー?えっちでぃー

 

一週間前からストラテラ服用中。今月病院にいくらかけたよなんて考えるだけで虚しくなりますが私は何とか生き延びています。皆もよく頑張りました生きてるだけで偉いんだよね私たちだからあんまり自分のこと責めないようにしようね。「それらしき傾向がある」って言われてそれってどっちみたいな疑問が湧き上がったけれど一先ず安心。よかったやっぱり私の異常は正常だったのだ、何かに押し付けて楽になれるのならそうさせてくれてもいいでしょ。

 

ストラテラは頭のごちゃごちゃを抑えたりできないことを少しやりやすくする為のお薬である。水色と白の二色のカプセルでおしゃれかわいい。つよい薬だからか飲んですぐに効果ありだった。激しい動悸にすっきりする頭、部屋に散らかったゴミをゴミ箱に捨てたり、シンクに溜まった食器を難なく片付けられるようになった。劇的な変化とは言えないけれど、超苦手だった電話応対や順序立てたほうれんそうが少しマシになったりもした。

 

ただ副作用はどんな薬にもあるもので、この薬のスーパーハイパーデメリットは自分が自分じゃなくなった感覚である。この三日間、一度も死にたくならなかった。感情が揺さぶられても数秒後には平熱に戻ってしまう。振り子のように行き来していた感情が死んでいる。ぽんぽんとアイデアが溢れる欠陥商品のような頭がエネルギーを失って、仕事用のロボットみたいな人間に矯正されていくのが分かる。

 

それでいいのかな、みたいな疑問ばかり沸いてくる。薬を飲まないとできない仕事を一生続けていけるのか。薬のちからで何とかなっていることが、果たして自分のちからになるのだろうか、なんてことばかり考える。そもそも薬を飲んで自分を変形させてまで社会に適合する必要があるのかな?世の中に喧嘩売りたい世界変えたいみたいな青臭さ私一生捨てたくないのに。

 

ひっきりなしに浮かんでいた言葉は今や借り物で、揺さぶろうとしなければ感情が働かない。鈍った心で死んでるみたいに生きるのは嫌だ。誰にも愛されなくても、私は足りない私が好きなのだ。つまらないと思うことなんてうまくできなくていい。100人に魅力ある人になんてならなくていい。一つでもいいから自分が誇りを持って没頭できるものに全霊をかけて戦いたい。私の全部あげるから、小説の神様どうか私を愛してください。残された期間はあと5年。なりたい自分になりたいよたったそれだけ。

 

 

分かったふりなんかしないでね

 

「つまんないね」


黙ってるだけの女の子、笑ってるだけの女の子、受け身な肉体そのままに他人からの親切を読み取ることすらできない不器用な女の子、わたしはあなたが自分の力でつくりだす新世界を見てみたいのだ、あいしてる停滞を爆発させてよかわいいだけの女の子、ギリギリの淵までおいつめてきみのよごれた血肉を見てみたい、趣味の悪いわたしにどうか嫌悪の滲む言葉を浴びせて、世界でいちばんしあわせになれつまんない女の子あいしてるよLOVEユー

 

「土曜日」


うがった批評とぬるい安心、何者にもなれないわたしたちのぬるま湯から抜け出したい、突き抜けたい誰よりもおもしろい物語のナイフでつまんない世界を串刺しにしたらどんな景色が見えるのかな、フィクションでしか人と繋がれないみたいな人生灰色だなって我ながら思うけど、酸素よりも水よりも永続的な言葉がほしいんだ

 

「ナルシスト」


きみの鬱陶しい驕り、覗き鏡ばかり見てるねって本当は誰しもに分かられている、センスとか感性が武器になる世界は呆気なく他者を切り捨てるから普通になったら死ぬんだよそんな矛盾に振り回されようか、若さも青臭さも物足りなさも満たされなさもどうか消えないで何処までも膨らんでゆけ、最後はわたしが死ぬか世界が死ぬかみたいな二者択一の花をひとりぼっちで散らそうか、傷つかなくては傷つけなくてはうまく生きてゆけないんですごめんなさい

 

「上下関係」


好きな人には手が届かなくて好きじゃない人をあしらってばかりいるきみは超性格がわるくって、時間の無駄だって人間に思うほど自己嫌悪、だけどきれいごと言ったって世界は弱肉強食なんでしょ、信仰してくれるひとしか好きになれないなんて薄ら寒い愛情だね、人間に接するほどつまんないなって思うなんて、そんな風に冷めた目でしか測れないものさしをいい加減捨てなよばか、自分ばかり頑張ってるってそんな風にひとりでぎりぎりになるのが趣味なの、素直に傾倒できるような本物の星にはきっと手が届かないのにね

 

「週休二日」


ひとよりも優れているものが何もない世界なんて自尊心削られまくって死に向かうだけだよ、こんな風に言葉が出なくなるような場所で息をするのなんてまっぴらだ、自分の願う姿で生きてゆくことが不可能だなんて絶望といっしょだね、限りないネガティブに押しつぶされて誰の胸にも光って消えない物語を紡げたらわたしの命なんてそこでおしまいでいい、そんな風に人間と関わることが我がつよすぎるわたしの精いっぱいのコミュニケーション、世界に絶望したとしても目の前のあなただけには絶望させられたくないよ

 

「咳をしても」


寒いふゆはきらい、何処にいても何をしても誰といてもひとりぼっちに思えるから、ぐだぐだつづく現実には何処にも救世主なんていなくて、同化したいと思える人間にすら出会うことは難しい、果てないこの道は何処までつづいてゆくのだろう、行く先は地獄かそれとも、不幸に慣れてしまった時点できみに幸せになる才能なんてないんだよ

 

 

 

酸欠金曜日のポエトリー

 

「日常」


いくらコンサータ飲んだって成長なんてひとつもしないまま季節だけがあっけなく過ぎて行くような繰り返しの日々に擦り切れていくのがわかる、どうして好きなことばかりで生きてゆけないのかなわたしたち、120%の力を注いだってふつうになれない絶望をあなたは知っていますか、鮮明な視界、重力のある世界、誰かの命令で動くロボットだけにはなりたくないんだ、苦手なことが99個あったって残りの1個で誰よりも突き抜けてみたい、何にもできないわたしをどうか許して

 

「アダムのりんご」


道路側においで席は奥にどうぞあっお金大丈夫です、何もかもに慣れなくてその手を払いたくなってしまう、男の人と女の人はやっぱり何処か違うんですね、あのね聞きたかったことがあるのそんなにやさしい笑顔で笑うのは女の人の価値が高い頃だけですか、退屈な女の人になってしまったらわたしはあなたのゴミ箱になるのですか、夢が見られなくなるまで幻滅するのはこわい、傷つけられるほど近寄るのはこわい、見上げなきゃキスができない背丈や耳を済まさなきゃ聞こえないアルトさわっても硬いままの肉体がこわい、卑屈なままのわたしはたぶん未知のあなたを何も知らない

 

「いびつ」


希望も絶望も紙一重で感情が揺りきれるほど生きてるって思える、ぎりぎりに追い詰められてがたがたに凹凸つくって閉鎖病棟に囲われる13歳の女の子になりたい、ごめんね金属バット頭の上に振り下ろしていいよ、一生青春につかっていたいのに大人みたいになってしまってねえ信じられるかな、いびつなくらいが丁度よくてふつうなんて簡単に犠牲にしてしまえるほどの身軽さ

 

「きみの知らない」


愛してるの花束をあげるきみのこと好きすぎるかもなんて浮かれた勘違いをしてみたい、安定した安らぎなんて何処にも見出せないまま季節がいつのまにか終わるのは嫌なんだ、もう一度だけ終電間際の改札の前でキスを交わそう世界でいちばんの恋人同士みたいにさ、寒そうにわたしを待っているきみ鼻を赤くしてジト目でわたしを見るきみ結局わたしのわがままを笑って許してくれるきみの横顔見てるとねなんだか泣きそうになってしまうよ、観覧車のいちばん高いところにいるままであなたとふたりきり真っ逆さまに落ちていけたらいいのにな

 

「裸眼」


ここはくもりガラスの中の世界、外は何も見えなくて内にいるわたしの声はきっとみんなに届かない、誰かの足音を聞きながら布団の中に篭ってばかりで、いくら喉を引っ掻いたって出るのは咳だけなんです、あのねわたし本当はねみんなに話したいことが沢山あるんだよ、うまく伝えられなくて大切なものほどこわされたくなくて宝物みたいに心の中にしまっているなんて言い訳だよね、わたしの姿は誰の目にも映らないけどいつか振り向いてほしいよ、どうかわたしの前を素通りしないで、好きになってくれなくてもいいよ、嫌いでもいいよ

 

 

ウォークインマイクローゼット

 

洋服って、麻薬だ。ショーウィンドウで運命的な出会いを果たしてしまえばそれが最期、ドーパミンが脳内に大量発生。どんなに高価な洋服だって欲しくてたまらなくなって、そのことしか考えられなくなってしまう。10代からこれまで好きだったブランドは「X-girl」「JaneMarple」「BLUEMOONBLUE」「LIZLISA」「CandyStripper」「RNA」「HELLCATPUNKS」「SEXPOTReVeNGe」「BEAMSBOY」「MILK」「Supreme.La.La」...カジュアル個性派フェミニンガーリーを行ったり来たりで落ち着かない。飽きっぽい性格だからか、季節ごとに気分が変わってクローゼットを一新しがち、これまで洋服にかけたお金のことを思うと眩暈がする。

 

小学生の頃はおしゃれなんてちっとも興味がなくて、「それ何処で買ったの」なんて意地悪言われるような珍妙な柄のTシャツにジーンズ姿で、ぼさぼさ頭に赤いメガネをかけていた。色の組み合わせや生地の違いなんてよく分からないからテイストが全然違う服を着て、雑誌の付録についているサンバイザーやらウエストポーチをおざなりな感じで身につけるような、絶妙にダサい(ことにも気づいていない)女の子だった。そんなダサさが「恥ずかしい」ことなのかもしれないと感じる瞬間は割と遅めにやってくる。小学生の頃は許されていたのに、中学生になった途端いきなり許されなくなることがあるものだが、「洋服のセンス」はその内の一つだった。眉毛をぼさぼさに生やしているのが普通だった女の子がスクールソックスのワンポイント一つに拘りだす。つぼみの花がぱっと開くみたいにお洒落に目覚める同級生を横目に「自分もどうにかしなければ」と焦り出す私が手を伸ばしたのが「Zipper」だった。

 

自己主張は激しいが生身の人間が苦手なネクラ人間と「私他の人とは違うんです」的なツンとしたファッションはがっちり噛み合ってしまうものである。「KERA」「CHOKICHOKI」あたりの雑誌を読み漁っては、教室内のイキリ系サブカル女子としてキャラ立ちしようと試みる私はコロッケ倶楽部という田舎限定そこそこマイナーなカラオケ店で流れていた「リルラリルハ」のPVを一目見て一方的な運命を感じてしまう。当時の神様は「Zipper」表紙常連の「木村カエラ」だった。カエラちゃんになりたくて、なりたくてなりたくてなりたくて、古着屋で柄物のジャケットや派手なタイツやカラフルな小物ばかり選んで購入した。近所の美容院のおじさんに雑誌の切り抜き(「Snowdome」時のベリショ)を見せて、「こんな感じにしてください」なんて注文をつけて切ってもらったら、お母さんに「男の子になりたいの?」と真剣に心配されるなんてこともあった。生徒手帳の表紙を開くと、カエラちゃんとは似ても似つかない、カッコよくも可愛くもないがとにかく髪がめちゃくちゃ短くて、全世界の人間を信用してませんみたいな目つきでこっちを睨む不機嫌な女の子が写っている。そんな感じで呼吸していた当時、教室に行くのも勉強をするのも苦痛だったけれど、自分の好きなものや気に入っているものを身に纏うのは楽しかった。上手く他人とコミュニケートできない自意識にまみれた田舎のダサい中学生が、お洒落を楽しいと感じることができるようになったのもこの頃だ。それが例え似合っていなかったとしても、傍目から見てかっこ悪かったとしても、愛したいものを愛すること、そのこと自体が誇らしかったのだと思う。洋服は私自身を愛するきっかけを私にくれた。

 

洋服が起こしてくれたミラクルはそれだけじゃない。高校生のとき、ロックといえば「NANA」程度の知識しかなく、洋楽も聞かないし楽器も弾けないのに何故かパンクファッションにハマった。理由はただ一つ、隣の隣のクラスにいた女の子に一目惚れしてお近づきになりたかったからである。ウルフショートカットのよく似合うボーイッシュな彼女はいつもヘッドフォンで何かうるさめな音楽を聴いていた。初めて隣町の駅の雑貨屋で、彼女が好きなブランドの南京錠ネックレスを買ったときのことを今も覚えている。首元にそれをつける度に肌が赤くかぶれたけれど、赤黒白十字架骸骨、イカつくて格好いいモチーフを身につけているとよわい自分が少しだけつよくなれた気がした。パンクなファッションは抑圧に対する抵抗であり、自分の殻に籠るための武装であり、私を傷つける世界に対して翻すロックな反旗だった。そんなパンクファッションは一度だけ私に特別な奇跡を起こしてくれた。「EASTBOY」のスクールバッグに銀色の手錠をコンコルド代わりにつけていたら、帰り道に憧れの女の子が近寄ってきて「お揃いだね」と笑いかけてくれた。私たちは一度だけ放課後にデートをした。スクールバッグの手錠をお互いの手首につけて撮ったプリクラを卒業するまで携帯の待ち受けにしていたことをきっと彼女は知らないのだろうけど。

 

かわいかったりかっこよかったりするお洋服はきっと何者にもなれない退屈な私にいつも不思議な魔法をかけてくれる。ブリーチをかけて金赤緑に色を入れて、マーチンの3ホールに足を突っ込んだら、憂鬱な坂道が普段より色鮮やかに見える気がした。洋服が好きという気持ちは、今も昔も変わらない。突然電撃が走るみたいに、服のことしか考えられなくなるくらいのめり込む瞬間がやってきて、やがて波のように去っていく。その時々でなりたい自分見られたい自分のイメージは流動的に変わっていくから、これまで多種多様な洋服を着ては脱いできたけれど、これからだって全然違うお洋服を自分勝手に楽しみつづけられたらいいなと思う。できれば一生使える上質なものよりも、今この瞬間的に何よりも代え難く素敵だと心惹かれる洋服を纏っていたい。実用的であるとか、丈夫であるとかだけじゃなくて、そんな刹那的な感傷が似合う自分でありたい。

 

 

「ヤサシイワタシ」ヤエちゃんについて思うこと

 

ヤエちゃんはひぐちアサ「ヤサシイワタシ」という物語に出てくる女の子である。この女の子のことを考えると動悸と吐き気と頭痛の三大コンボに見舞われる。会ったこともないのに、話したこともないのに、というか私と彼女は同じ次元にはいないのに、こんなにも激しく共鳴してしまう女の子は世界にヤエちゃんひとりだけだ。破滅に向かって突っ走る、きっと誰かにとっての猛毒にしかなれない女の子。私のヤエちゃん。

 

「ヤサシイワタシ」は、ヤエちゃんの毒牙にかかった(かかりにいったと思うけど)主人公の男の子セリウくんが再生していくまでを描いた成長物語である。正直なところ、物語の完成度がどうとか読者がどう感じるかとかは抜きにして、私はセリウくんがいつまでもヤエちゃんのことを忘れずにいてくれたらいいのにと思っていた。もっとはっきり言えばセリウくんがヤエちゃんの後を追って死んでくれたらいいのにって。こういうところが結局私の今の限界で、現状に対する甘えで、受け入れられない理由なのかもしれないけれど。今回はヤエちゃんの話をしようと思う。

 

ヤエちゃんは、自分からブロックした癖についツイッターを覗きに行ってしまうような、目の前にいても目の前にいなくてもどっちにしろムカつく類の女の子だ。善悪の判断がしっかりつかないまま大人になってしまったから、恋人を両親の代わりに都合よく使用して依存しまくる。攻撃力が高いモラハラ女で、周囲の人間に死ぬほど厳しい言葉を吐き回っては人間関係をぶち壊す。その癖自分にはゲロ甘な努力嫌いで、なりたい自分になる為の地道な積み重ねができない。他人からの評価が全てだから、普通や退屈を憎んでいて、今の自分とは懸け離れた理想の自分をいつだって描いている。いつかちゃっかり誰かに見初められて特別な女の子になれるみたいなシンデレラストーリーを何の疑いもなく信じてる(ように見える)けれど、結局は自分が自分の望んだような人間になれないという絶望に殺されてしまうような、光と闇を行き交う宙ぶらりんな女の子。いつかこんな風になってしまうんじゃないか、一歩間違えたらこんな風になっていたんじゃないか、そんな不吉で不安な予感を抱かせるヤエちゃんのことを考えて、考えすぎて、何度眠れない夜を明かしたか分からない。

 

「いいことをいいって言ってやるしかない」「おれといれば?」と言ってヤエちゃんに寄り添い、手を差し伸べてくれるセリウくん。けれどヤエちゃんはセリウくんに「あー、気分が上向いたわー」と全然上向いてないテンションで答え、結局自分から死を選んでしまう。ヤエちゃんの最期が意味するのは「メンヘラと健常者はわかり合うことができない」というメッセージである。「ヤサシイワタシ」という漫画は残酷に容赦なく両者の違いをあぶり出している。ヤエちゃんが住み慣れた絶望を選んでしまったのは何故か。それは暴力や退廃の匂いにきっとおそらく美しさや安らぎを覚えてしまっていたからで、大好きな自分の世界を変えるのが怖かったからなんじゃないかと思う。私はそんなところも含めて、ヤエちゃんに惹かれてしまう。

 

死んでほしいくらい嫌いだったヤエちゃん、嫌いなのと同じくらい好きでやっぱり生きていてほしかったし、生き抜いてほしかった。理想の自分に殺されなければ今よりずっと楽になれる、そんな陳腐でありきたりな希望を私に見せてほしかった。写真で芽が出て承認されまくりかもしれないし、セリウくんとの子供ができて超安泰な家庭育めたかもしれないし、他人の評価に惑わされない価値観に身をおくことだってできたかもしれない。でも可能性の話なんて、渦中にいる人間にはそんなの意味ないんだよね。今自分には何にも見えないって事実が全てなんだよね。ヤエちゃんは結局生き抜けなくて、私は余生を生きている。

 

自分の願う姿で認められたい。自分のなりたい姿で生きていきたい。夢を見る為に、夢に殺されない為に、私は明日も生きていく。胸の中にヤエちゃんを育てながら、ヤエちゃんを慈しみながら、いつか私のヤエちゃんを、自分のちからで「ヤサシイワタシ」に変えてあげられるように。

 

邦ロックと私青春のエモ

 

「星」 

君は青く光るお星様、冷たすぎて寄る辺もない。驚くほど人に慣れていない君はひょっとしたら私よりも不器用な女の子。だってこの曲が終われば私は君を忘れるけれど、君はきっと私を忘れることができない。全部投げ出して会いに行きたくなるような恋を君はしたことがあるのかな。そういう相手にいつか出会えるといいね、そういう相手と愛を伝え合えるといいね。報われない気持ちほど忘れられない。私を分かりやすいって笑う分かりにくい君のこと思い出すのは何故かこんな星の煌めく夜ばかりだ。

 

「青色」

走り始めて少しずつ合わなくなるリズム、ドラムの上で無理矢理保っているぎりぎりのグルーブ。音の芯が分からなくなるまでもっと壊れてしまえばいい。そうすれば舞台の上で辱められて、私たちはもうだめなんだってことがやっと君にも伝わるだろう。いくら君のことが好きでも、私は君の付け合わせにはなれない。そんなの最初から混じり合えないのなんて分かってるでしょ。こんな偽物の音楽クソくらえだ、あはは力入れすぎたせいで一弦が切れちゃったね。いつからこんな風になっちゃったのかな、全部きっと私が悪いんだ。何年前のことまだ根に持っているような陰湿な女でごめんね。今まで楽しかったよ、じゃあねバイバイ。好きだったなんて言わないよ。

 

「銀河」

私の精神安定剤。カッターナイフとハルシオン援助交際。どんなにへんてこな音楽だって二人が弾くと全然尖ったところなくなるんだもん不思議だね。一緒に行った場所は数え切れなくて、一緒に過ごした時間は恋人よりも長くって。それなのに私たち、あの数年間なかったみたいに現在進行形猛スピードで離れていくんだね。いつかもう一度笑い合うことができるのかなんてこと考えるとまた胸がぎゅんぎゅん痛くなるよ。人はその時一番近くにいる人のことを友達と呼ぶのです。そんなことわかってる。みんなそれぞれ必死に生きてるだけなのです。それもわかってるうるせえよだけど。私は多分あなたたちみたいな友達は絶対に特別なんだ、あなたがもう私のことそんな風に思ってくれていなくても。気づいたときにはいつも取り返しがつかなくて、欲しかったものは全部両手で取りこぼしているみたいな人生だね。

 

「蛍」

緊張するときは目を閉じる。目を閉じればあの日につながるような気がする。私の青春はそれがすべてだった。すべてだと勘違いをさせてくれるような時間だったのだ。きっとずっと死ぬまで色褪せない日々のこと、あなたとそれだけでまるきり満たされていた心。私の人生絶頂なのだと気づかせてくれなかったのは神様の意地悪か。ドラムロールを合図に、血管が粟立つ。ショートカットを振り乱して、マイクにがなる。ディストーションを限界までかけたせいで、本物の音はとっくに分からなくなっている。どんなに練習をしたって、ソロをきちんと弾けたことなんてないけれど。でも、この叫びに似た旋律が、あなたの耳に届いていればいいなと思う。他の誰にも立ち入ることのできない閉鎖的な空間に私たちは立っている。音楽が鳴っている間だけは私たちは無敵になれる。女の子が女の子だというだけで不自由さを強いられる世の中だけれど、ギターのピックを握っている間だけは何だってできる。私の手をとってくれる君がいれば、何処へだって走って行ける。誰も見たことのない景色をあなたたちに見せてあげる。だから私のことを特別な女の子にしてください。どうか瞬きをせずに私を見て。私はあなただけの、たった一人の女の子になりたいのです。私の声が聞こえますか。君だけの絶叫を聞かせて。そのままのあなたが好きです。